先進というイメージが独り歩きし、先進医療は「優れた治療法」「受ければ必ず治る」といった誤解が広がっています。
しかし、先進医療は夢の治療などではありません。
あくまで健康保険が適用されるかは未定の評価段階の治療だということを理解し、納得した上で利用するかどうかを決める必要があります。
普及を目指す最先端の医療
医療では検査や治療の目的でさまざまな機器が使われています。
例えばiPS細胞を使い失われた組織を回復させる再生医療や、人間の指先より正確で繊細に動くロボットアームを利用したロボット手術など、さまざまな技術を駆使した最先端の医療機器が登場しています。
しかし、最先端の治療や検査を実際に医療機関で受けられるようになるには、既存の治療や検査に比べて有効であり、安全であるということを厳格な条件による治験によって確認することが必要です。
治験の結果、有効性と安全性が認められた治療は国内の医療機関で導入されます。
国内で新規に研究・開発された未承認の薬剤・医療機器については当然ですが、これまで実績がある薬剤・医療機器を他の病気に転用する場合や、海外では承認されてすでに実績があるのに日本では未承認の薬剤・医療機器についても、日本国内でふたたび評価されなければ医療機関で使用することはできません。
しかし、評価が定まるまでその治療が受けられないとなると、治療を待つ患者からすれば、長期間その治療を受ける機会が失われることになります。
厚生労働省の定める先進医療制度は、このようなタイムラグを解消して治療の選択肢を増やしつつ、一方で日本国内での導入をスムーズにするため定められました。
先進医療には、治験という役割もあるため、実施できる医療機関の要件や対象となる病気の状態など厳しく条件が設定されて、副作用やミスに迅速に対応できる体制が作られています。
さらに先進医療はAとBの2種類に分けられており、高度な先進医療の評価を行う先進医療Aに対して、先進医療Bは、国内でも患者数が極端に少ない稀少疾患の治療薬の治験を医師主導で行えるように支援する制度としても位置づけられています。
先進医療として認められた治療や検査は、定期的に評価が行われ一定の期間を経過するとさらに評価を継続するか、あるいは有効性・安全性が認められず、先進医療から削除されるか、有効性・安全性が認められ、保険診療として申請されるかのいずれかになります。
どこで受けることができるのか
新しい治療法であっても、それが保険診療であれば基本的にどの医療機関でも受けることができます。
手術支援ロボの「ダヴィンチ」など保険で承認されて間もない治療については、医療機器を所有している機関が限られていますが、今後広まっていくことが予想されます。
一方、先進医療は厚生労働省によって実施できる医療機関の条件が厳格に指定されており、治療によってはわずか1,2か所の病院で行われているものもあれば、全国的に行われているものもあります。
対象となる病気も限定されており、指定された病気以外で治療を受けると先進医療としては認められません。
実施している機関は厚生労働省のホームページから探すことができます。
先進医療を実施している医療機関については、毎月情報が更新されています。
新規に追加される医療機関もあれば、中止してしまう機関もあります。
また、先進医療自体も追加されたり、削除されたりしていますので、最新情報を確認する必要があります。
この他、保険診療外の新しい治療や検査を受ける場合は、製薬会社や、大学病院などの治験に参加することで、その治療を受けられる場合があります。
また、自由診療として病院や診療所で行われている治療は、インターネットなどで探したり、医療機器メーカーに問い合わせることで情報を得ることができる場合があります。
ただし、先端の治療だからといって既存の治療や検査に比べて効果が高いということではありません。
知られていない副作用が起こることもあります。
そのため、医師とよく相談して判断することが必要です。
保険診療との違い
通常、医療機関で受ける検査や治療は、加入する医療保険から一定の割合で費用が給付される保険診療が行われます。
保険給付が認められていない治療は自由診療と呼ばれています。
新しい検査や治療は、保険診療として認められる前に既存の検査・治療と比較して、また既存のものがなければ、それ自体が有効でかつ安全かどうか確認する必要があります。
これは、臨床試験や治験の段階であり、このような治療を受ける場合は自由診療となります。
また、医療行為の必要性が認められない美容整形などには保険給付は認められず、費用の全額を自己負担することになります。
保険給付の対象となる保険診療と、全額自己負担となる自由診療を組み合わせて利用するものは混合医療と呼ばれ、現在の日本では法律で指定された一部の治療を除き認められていません。
これを組み合わせて行うと、保険診療の治療も合わせて全額自己負担となります。
先進医療も保険承認前の医療なので全額自己負担ではありますが、組み合わせて行われる保険診療部分には保険が適用され、通常の診療と同じように健康保険から7割、8割の保険給付が行われます。
また、医療費が高額となった場合、保険診療の部分については一定額を超えた分の金額が保険から支給される高額療養費制度も利用できます。
自己負担限度額を超えた金額は医療保険に申請することで保険から支払われます。
ただし、この制度は先進医療部分には適用されません。
保険での給付が受けられない部分は、確定申告の際に領収書を添付して手続きすることで、一定の金額の範囲内で医療費控除を受けることができます。
先進医療対応の民間の医療保険
先進医療の費用は保険が適用されませんので、さまざまな制度を使用しても高額の負担になることがあります。
例えば、癌の重粒子線治療や陽子線治療などは300万円を超える治療費がかかる場合があります。
また、1回の治療は数十万円で済むものの、複数回の治療が必要な場合はやはり支払いが高額になります。
このような治療費の負担を軽減させるために利用されるのが、民間の保険会社が販売している先進医療特約保険と呼ばれるものです。
多くの保険会社では通常の医療保険に追加する形で、先進医療を受けた際に給付を受けられるサービスが行われています。
ただし、すべての先進医療が対象となっているとは限りません。
保険会社によっては、対象となる先進医療が限定されているものもあります。
また、インプラントやレーシックなど広く行われている治療でも特約の対象外となっていることが多いので、どのような病気が対象で、いくらまで保障されるのか、保険会社に確認しておくことが必要です。
今後、先進医療に求められることは、健康保険の適用ではないでしょうか。
先進医療は健康保険が使えないので、費用の高い先進医療が増えていくと、お金のある人しか医療の進歩を享受できなくなる可能性もあります。
国民の健康を守るために本当に必要なことは先進医療の拡大ではなく、安全性と有効性が認められた治療は速やかに保険適用にし、健康保険をさらに充実させることではないでしょうか。
(文・看護師)