現在日本では月経のある女性の10人に1人は子宮内膜症であるといわれています。
社会で活躍している女性にとって子宮内膜症による「痛み」と「不妊」は生活の質を下げ就業を困難にします。
治療は短期間で終わることは期待できず、再発率も高い慢性疾患であるため人生に大きな影響を及ぼします。
一方でほとんどの場合、長期入院や休養は不要で致命的な疾患ではないため病気として認識されにくく周囲の理解を得られにくいというジレンマもあります。
子宮内膜症とは?
子宮内膜はエストロゲン・プロゲステロンの影響によって周期的に増殖と剥離を繰り返します。
子宮以外にできた子宮内膜組織も同じように増殖と剥離して出血を起こします。
本来の位置にある子宮内膜ははがれたら月経として体外に排出されますが、子宮以外の場所にできた子宮内膜組織は剥がれ落ちても出口がありません。
そのため血液が体内にとどまることになりそれが原因で炎症が起こったり臓器の癒着が起こります。
子宮内膜症は、臓器がお互いくっついて(癒着)変形し、機能を失う病気です。
□原因
子宮内膜症の原因ははっきりわかっていませんが、月経血の逆流がその発生の大きな原因のひとつだと考えられています。
不要になった子宮内膜は剥がれ落ちて月経血として体外に排出されます。
このときに月経血が卵管を通って腹腔内に逆流することがあります。
卵巣や腹膜、臓器と臓器の隙間にくっつくことで子宮内膜症が発症すると考えられています。
□症状
主な症状は生理痛と不妊です
子宮内膜症患者の9割が自覚症状として生理痛を訴えています。
生理痛は年を追うごとにひどくなるのが特徴です。
他に、癒着による、慢性骨盤痛(生理以外に起こる)・性交痛・排便痛があります。
不妊は、癒着により卵管の働きが悪くなり、卵子をピックアップできず受精の場が失われます。
また、卵子の質も低下させるといわれています。
症状チェックリスト
子宮内膜症を早期発見するためにセルフチェックをしてみましょう。
ひとつでもあてはまる項目があれば子宮内膜症の疑いがあります。
激しい月経痛があり、鎮痛剤を飲んでも痛みが治まらない
月経のときに、鎮痛剤を飲む量が増えている
年々、月経痛がひどくなってきた
月経のときに、吐き気がしたり嘔吐することがある
月経のとき以外にも下腹部痛がある
セックスのときに思わず腰が引けてしまうような痛みがある
排便のときに、肛門の奥の方が痛い
不妊症である
治療
子宮内膜症の治療法には大きく分けて薬物療法と手術療法があります。
新しい薬の登場などで治療法の選択肢は広がっています。
その中でどんな方法を選ぶかは症状や年齢をはじめ、その人のライフプランによって違ってきます。
女性にとって人生の大きなイベントである妊娠・出産をこれから希望するか、しないか、希望するのはいつなのかといったことが大きなポイントになります。
薬物療法 | 手術療法 |
対症療法⇒鎮痛剤・漢方薬などで痛みをコントロールする | 保存手術⇒妊娠の可能性を残す手術 |
ホルモン療法⇒EP配合剤(低容量ピル)、黄体ホルモン製剤、GnRhアゴニストなどのホルモン剤を使って病気の進行を防ぎ痛みをコントロールする |
根治手術⇒妊娠の可能性よりも根治を目指す手術 |
*どちらにも、腹腔鏡手術と開腹手術があります
手術療法を選択されるケース
・卵巣チョコレート療法が大きい、または大きくなっていく
・40歳以上で卵巣チョコレートのう胞がある
・不妊の改善をめざしている
・薬物療法では症状のコントロールがうまくできない
薬物療法のメリット・デメリット
対症療法のメリット | 対症療法のデメリット |
痛みがコントロールできる | 病気そのものを治すことはできない |
治療中に妊娠できる | 病気が進行することがある |
副作用がほとんどなく体にかかる負担が小さい | |
経済的な負担が小さい |
ホルモン療法のメリット |
ホルモン療法のデメリット |
痛みなどの症状が緩和される | 治療中に妊娠できない |
病気の進行をおさえる事ができる | 副作用がある |
病巣を小さくできる | 鎮痛剤に比べて価格が高い |
ホルモン療法でまず選択されるのが排卵を抑えるEP製剤です。
EP製剤(低容量ピル)はエストロゲンとプロゲステロンを合わせた薬です。
排卵を抑える働きがあり子宮内膜の増殖を抑え子宮内膜を薄くします。
月経量が減り月経期間も短くなります。
その結果月経痛も緩和されるなど、子宮内膜症の症状を抑える効果があるのです。
黄体ホルモン製剤は排卵を抑制し、卵巣に働きかけて、子宮内膜症を悪化させるエストロゲンの分泌をおさえます。
また、子宮内膜症の病巣に直接作用して増殖をおさえます。
EP剤で効果がなかった場合に、次のステップとしてこの黄体ホルモン製剤を使用することがほとんどです。
閉経と同じ状態を作るGnRHアゴニストは数々の副作用があるため、短期間だけ使用します。
GnRHアゴニストは脳の下垂体に作用し、下垂体から出る卵巣を刺激するホルモンの分泌を下げ卵巣の働きを抑える薬です。
卵巣の働きが悪くなるとエストロゲンの分泌が低下し、月経が止まります。
閉経したときと同じ状態をつくるこのような治療法を偽閉経療法といいます。
月経痛などの症状がとてもよく改善されます。
病巣の増殖もなくなり病巣が小さくなる効果もあります。
副作用は子年季症状(ほてり・のぼせ・発刊・不眠・頭痛・イライラなど)、肌荒れ、脱毛、骨量の低下
チョコレートのう胞
卵巣の中にできる子宮内膜症です。
子宮内膜組織が卵巣の中で増殖と剥離を繰り返すため、卵巣に血液がたまってドロドロに溶けたチョコレートのように見えることから卵巣チョコレートのう胞と呼ばれています。
3~4%が癌を発症するといわれ、40~50代で発見されるものは癌を発祥する率が高くなります。
チョコレートのう胞自体はほとんど痛みませんが、約9割が骨盤壁に癒着しているのでその癒着が痛むことがあります。
たまった血液によって卵巣が大きくふくれていき、放置しておくとのう胞が破裂して激痛を起こします。
そのためのう胞が5cm以上になったときには、それを取り除く手術が必要になります。
また、卵胞の発育が悪くなり排卵が起こりにくくなる、癒着によって卵管が圧迫され受精卵の移動を妨げる、排卵した卵子をピックアップできなくなるなど不妊を招きます。
妊娠を望むかどうかによって治療法が大きく違ってきますので、ライフプランを立てて主治医とよく相談して治療方針を決めることが大切です。
子宮内膜症は治療が長期にわたる病気です。
痛みをコントロールできれば充実した生活を送ることができます。
また、周囲の理解と協力が必要であり、辛いときに我慢せず辛いと言える環境作りが大切です。
子宮内膜症は我慢できない生理痛ばかりではなく、また進行する慢性疾患です。
早期診断と早期に治療を開始することでQOLが維持できます。
今後、子宮内膜症への理解が進み早期治療につながる人が増え多くの女性が痛みや苦しみから解放されることを願います。
参考文献 よくわかる最新医学子宮内膜症