現在、世界では多くの薬剤が臨床開発され日々医療は進歩しています。
しかしながら、世界で画期的な医薬品が開発されても日本で直ぐに使用出来るわけでは無いのをご存知でしょうか?今回のトピックでは、世界と比べた日本の医薬品の開発事情についてお話ししたいと思います。
ドラッグラグって?
ドラッグラグとは 医薬品は効果や副作用を確認する治験で各種データを集積し、厚生労働省の管轄である医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査を受け承認される必要があります。
現に、抗がん剤・希少疾患を対象とした治療薬が、海外では承認されているのに日本では承認されていないため使用できないという問題がメディアでも取り上げられています。
この薬の承認格差が「ドラッグ・ラグ」です。
日本のドラッグラグの現状
2010年時点では、世界のある国で発売した医薬品が自国にて発売するまでの期間を見てみるとアメリカ合衆国では0.9年、日本は約4.7年と先進国8か国の中でも新薬の開発が並外れて遅いと言われていました。
現在ではこれを改善すべく、2007年より国際共同治験の推進や審査期間の短縮などを試みたためこの10年間で急速に改善されています。
また、薬価制度上の問題点である「特許期間中の薬価の循環的下落」については2010年4月に「新薬創出・適応外解消薬解消等促進加算」が試行導入され、2018年には制度化し、より解消に向けて動いています。
ドラッグラグが起こる理由
ドラッグ・ラグは【開発ラグ】と【審査ラグ】の和で量ります。
新薬品目での審査ラグは実はここ5年間はほぼ0を維持しており、米国との差は見受けられません。
しかし、開発ラグに関しては年度によって変動は見られるものの、ここ5年では平均1年程度ラグが生じています。
結果的に日本は遅れている、という状況になっているのです。
効果的な薬がないために新薬の承認が待つ患者様にとって、こうした時間のずれは非常に問題です。
抗がん剤のドラッグラグ
ドラッグ・ラグが問題になっているのはオーファンドラッグだけではなく、抗がん剤も同様です。
米国がん学会では、毎年約150種類以上の抗がん剤の治験情報が掲載されているにもかかわらず、日本での承認に向けて治験が行われるのは50種類に満たないです。
そこで、特定の疾病をもつ患者様で構成された団体の働きかけにより、厚生労働省は国内の治験を省略し、早期に承認すべき抗がん剤の種類を見直すことになりました。
これによって厚生労働省は、承認を待たずにこれらの薬を保険適用にすると決定しました。
しかし、その薬剤は少なく小児の血栓症へのワーファリンや再発卵巣がんへのジェムザールなど既に別の病気で使用していた薬剤を他の病気にも使用できるようにした「適応拡大」ばかりでした。
国内で未承認の薬剤に関してはほとんど手付かずでした。
ドラッグラグを解消するには?
厚生労働省は特定の重大疾患の薬を対象に新薬の臨床試験を省略する「条件付き早期承認制度」を設定しました。
これにより、日本での新薬の登場するスピードを早めようとしています。
また、この制度は製薬企業にも大きなメリットがあります。
医薬品の開発には長い年月と多額の開発費がかかるため、企業が開発を中止してしまうこともしばしばあります。
というのは、臨床試験は通常「フェーズⅠ」「フェーズⅡ」「フェーズⅢ」の3段階で進みます。
中でも「フェーズⅢ」がほかの段階より多くの患者を集めて有効性と安全性を確認する必要があります。
その期間は約二年で費用は40億円にものぼり最も大変です。
このフェーズⅢを試験する代わりに有効性・安全性データを市販後に収集するなどの条件を課しました。
これにより機関も12か月から9か月に短縮できるそうです。まさに、「製薬業界からの要望を形にした」ともいえるでしょう。
しかしながら、この制度には条件があり全ての薬剤が対象となるわけではありません。
重篤な疾病や患者数が少ないなどの理由でフェーズ3試験を行うだけの患者を集めるのが難しいため、開発の長期化が予想される薬剤が対象となります。
それでも製薬業界はこの制度に対して好意的です。
患者側の意見では「安全性の確認のため承認が遅れるのはもどかしく、多少のリスクがあっても早く使いたい」という意見もあります。多くの製薬メーカーは少しでも多くの患者に新薬を届けることができるので、「新制度を使って迅速な承認を目指したい」と活き込んでいます。