「治験って聞いたことがあるけど一体何をするのだろう?」「病気持ちではないけれど、私でも参加できるの?」「どこでしているの?」など【治験】という言葉は知っているけれど、どんな種類があって何をするか、どこでしているかまで知っている人は少ないのではないでしょうか。
今回は大阪の治験についての情報を説明します。
治験ってどんなもの?
新しい医薬品や医療機器などが一般の患者さんに使われるようになるには、その効果と安全性を確認した上で厚生労働省に承認されることが必要です。
そのためには、開発の最終段階で多くの患者さんに使用していただき、その効果と安全性を詳しく調べなければなりません。
人における試験は一般的に「臨床試験」といわれており、その中でも特に、動物を使用した非臨床試験によって選ばれた薬の候補物質を用いて、国の承認を得るために効果や安全性についての成績を集める臨床試験を「治験」と呼んでいます。
医薬品もしくは医療機器の安全性や有効性を検討し、安全で有効な医薬品・医療機器となりうることが期待される場合に治験が行われます。
治験は大きく分けて3つのステージがあり、それぞれ第I相試験、第II相試験、第III相試験と呼ばれています。
◆第I相試験◆
対象:少数の健康な成人又は患者さん
目的:治験薬の安全性や、薬がどのように体内に吸収され排泄されるかの調査。
◆第II相試験◆
対象:比較的少数の患者さん
目的:第I相試験で安全性が確認された用量の範囲での薬剤を使用し、薬の安全性、効果、適切な投与量等を調査。
◆第III相試験◆
対象:多数の患者さん
目的:第II相試験よりも詳細な情報を集め、実際の治療に近い形での薬の効果と安全性を確認。
治験が行われる場所は主に病院です。
治験が行われる病院はどのような病院でもいいというわけではなく、医療設備が整っていること、医師・看護師、薬剤師などが揃っていること、緊急の場合にはすぐに必要な治療や処置が行えることなど「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」という規則に定められた要件を満たす病院だけが選ばれます。
治験を行える条件を満たした病院や施設は限られており、ほとんどが大学病院や大規模な民間病院などで行われています。
大阪の治験って多いの?少ないの?
世界における日本の新薬開発品目数はアメリカ、スイスに次ぐ世界第3位であり、世界屈指の新薬創出国となっています。
最近の年間国内治験実施数は約150件で推移しており、その6〜7割は東京を中心とした関東圏で行われています。
ちなみに現在製薬会社は全国で1038社あり(Baseconnect LIST 参照)、製薬会社の本社がある都道府県別のランキング上位10都道府県は、東京401社、大阪186社、富山44社、奈良40社、神奈川37社、兵庫37社、愛知29社、京都27社、埼玉23社、滋賀19社となっています。
製薬会社の数からして、治験実施数が最も多いのが東京であることは妥当です。
また、治験の多くは製薬会社が治験のデータを集める仕事を外部委託していて、外部委託された会社(CRO)は東京にある場合が多いため、関東圏での治験の数が多くなっていると推測されます。
対して関西圏、特に大阪における治験実施数は、大阪府の人口 (患者数)、医療施設数、製薬メーカー数の割合から見ても少なくなっています。
その原因としては、治験を実施している医療施設や治験を希望している医療施設同士の情報や繋がりが立ち遅れていることに加えて、治験が行われている医療施設に対しての治験サポート体制が脆弱であることなどが考えられます。
大阪府としてはこのような問題を解決すべく様々な取り組みを行っています。
大阪府の治験に対する取り組み
平成9年にGCP省令が交付された事により日本における治験は大きく変わりましたが、当時日本で行われていた治験の国際的な評価は、「質が悪い」「スピードが遅い」「費用が高い」と低いものでした。
その後、国内の治験活性化に向けて「全国治験活性化3カ年計画」や「新たな治験活性化5カ年計画」が実施され、その結果、平成22年ごろには、日本の治験のスピードは国際レベルに追いつき、オーバークオリティが懸念されるほどに質も良くなってきました。
しかし費用が高いというところは変化がなく、この原因は日本の治験実施施設における症例集積性が低く、1つの治験に数多くの施設参加を求めざるを得ないなど治験体制の構造的問題があると考えられました。
この状況を改善するため、平成23年に大阪府医師会の援助を得て「大阪共同治験ネットワーク」という特定非営利活動法人(NPO)が創設され、現在58施設が登録されています。
このNPO法人は大阪府全域における医療機関のネットワークを密にし治験実施体制を整えることで、症例集積性を上げる事が期待されています。また、医薬品や医療機器にかかる治療や臨床研究の業務を円滑かつ、適切に支援することにより、地域における質の高い治験が行われることや治験の実施数が増えること、日本の創薬事業に寄与することを目的としています。
現在行なっている活動は主に6項目です。
①医薬品、医療機器にかかる治験実施の支援
②医師や医療従事者に対する治験に関する教育研修などの企画、開催
③治験に参加する施設のためのネットワーク体制の確立
④医療、医薬品関連団体、大学医学部ならびに行政との連携をもとにした治験推進啓発
⑤治験コーディネーター育成
⑥治験の計画、実施体制構築、実施進捗管理、成績評価などに関するコンサルティング
また「治験ネットおおさか」という大阪府内の治験活性化を目的に創設された地域治験ネットワークもあります。
平成19年に大阪府内の医療機関、医師会、製薬団体、自治体で構成された「創薬推進連絡協議会」の分科会として発足されました。
複数の医療機関をネットワーク化して情報と機能の一部を集約化することで、 治験の効率化やスピードアップ化を図り、大阪府内において革新的な医薬品や医療機器を早期に実用化できるような環境を整備することを目的に設立されました。
大阪府内における治験のさらなる活性化に向け、治験に関する情報交換、教育・研修の共同利用、治験共同窓口機能の具体化、共同IRBの運用などの取り組みを推進し、治験を積極的に行なっている大型医療機関等の連携を図っています。
参加している医療機関は国内においても治験実施体制の整備ができている大阪府内5大学の附属病院、府立病院機構病院、国立病院機構病院などの医療機関です。
これらの施設は、それぞれ活発に治験を行っており国内屈指の施設となっていますが、国外を見てみるとアジア諸国においてはメガホスピタルが高い症例集積性を有していることに加えて、治験実施体制の整備が高度に進んでいます。
このような海外のメガホスピタルに対抗するべく治験ネットおおさかでは、症例集積性を高めることや、参加施設が複数ある場合でもあたかも1つの施設で治験が実施されているかのような実施体制を整えることができるように、府内の16の施設(平成30年6月現在)で治験ネットワーク体制が構築されています。
治験ネットおおさかを利用して実施する治験は、それぞれの施設に依頼する治験と比較してメリットがあります。
まず1つ目は、依頼者窓口、参加意向調査、共同IRB事務局業務を大阪共同治験ネットワークに任せることにより、治験依頼者は1つの窓口に依頼するだけで複数の施設で治験を実施することができ、窓口である大阪共同治験ネットワークに資料を一括送付すれば、共同IRB実施施設が選定されるなど、できる限り運用を統一することで一括審査や手続きの一元化が可能になります。
2つ目は、各施設の進捗状況の定期的な情報収集や配信、症例進捗検討会の自主運営、参加医療機関の研修連携・相互利用などを行うことで、参加施設間における情報を共有できます。
そしてあたかも1医療機関で実施しているような機能を果たすネットワークとなっているため、コストの軽減やモニタリング業務の効率が向上します。
このように大阪では治験に関して様々なネットワーク化が進められており、医療機関の連携をカタチにして、医療機関同士の繋がりを実現しています。
治験実施にあたって医薬品や医療機器の開発をしている製薬会社、医療機器メーカーなどが「治験ネットおおさか」を活用し、「大阪共同治験ネットワーク」を核として大阪地区での医療機関のネットワーク化が進めば、治験が大きく進むことが期待されています。
また、大阪地区から革新的な医薬品、医療機器を創出し、治験の振興を図るだけでなく、臨床研究の活性化にも貢献し、創薬イノベーションを進め、良い薬が必要としている患者さんの元に早く届くよう取り組みを行っています。
現状では関東圏と比較すると大阪地区はまだ治験数は多くはありませんが、自治体、医療機関、医師会が一体となって大阪地区の治験活性化に取り組むことにより、今後のさらなる発展が期待されています。
大阪における治験実施等の情報公開はポータルサイトや大阪治験Web で行われており、実施中の治験状況や参加医療機関ごとの実績などを調べることができます。
健康な方も疾患をお持ちの方も、条件が合えば治験に参加できるため、信頼できるサイトなどから情報を集めていただければと思います。