新薬を医療の現場に送り出すために重要な工程の1つに「治験」があります。
実際には健康なボランティアや同意を得た患者様に治療薬を使って、そのデータをもって厚生労働省に承認申請を行うというのが流れです。
しかし日本での治験は倫理性を保証するため制定したGCPというルールにも縛られるため、比較的コストも低い海外で行われ、国内の治験数が減少する「治験の空洞化」が生じています。
このように創薬が困難な状況ですが、今後更に複数の薬剤の新規参入が見込まれる疾患もあります。
その1つが「乾癬」です。
まずは乾癬のおさらいをしましょう。
乾癬とは
乾癬とは慢性の経過をとる皮膚疾患です。
人によって症状は異なりますが、典型的な症状としては皮膚に赤く盛り上がった紅斑が発生し、その上を銀白色の鱗屑がかさぶたのように覆い、次第にポロポロと剥がれ落ちます。
人によってはかゆみを伴うことが多く、関節の痛み、眼症状なども出ることがあります。
推定患者数
乾癬の患者数は日本において約43万人と推計されています。
男性の罹患率のほうが高く女性の2倍となっております。
原因
名前の響きから人に感染すると誤解されることが多い疾患ですが人にうつることは決してありません。
乾癬の患者様は外見症状の特徴から人目を意識した生活をしているため、本人はもちろんのこと周囲の人が間違った先入観を持たないことが大切です。
乾癬の原因は特定されていませんが、最近の研究では免疫異常により発症することが分かっています。
乾癬病変部ではサイトカインが大量に生産されており、本来は身体を正常に機能させる働きをするサイトカインが免疫異常で過剰に増えることで炎症を引き起こしてしまいます。
乾癬の現在の治療法
乾癬治療では、従来からステロイド外用療法、光線線療法、または内服のシクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル他)、エトレチナート(チガソン)などの全身療法が行われています。
昨年には、PDE4阻害薬のオテズラ錠(アプレミラスト)という経口剤が上市されました。
PDE4阻害薬はサイトカインの炎症性メディエーターの産生を抑制するという世界初の経口剤です。
オテズラ錠の発売により経口剤の必要性が再認識されてきており、現在JAK阻害剤、TyK2阻害剤などが開発段階にあります。
さらに近年、抗TNFα抗体の皮下注射製剤アダリムマブ(ヒュミラ)および点滴静注製剤インフリキシマブ(レミケード他)、抗IL-12 /23p40抗体の皮下注製剤ウステキヌマブ(ステラーラ)、抗IL-17 A抗体の皮下注製剤セクキヌマブ(コセンティクス)およびイキセキズマブ(トルツ)、抗IL-17受容体A抗体の皮下注製剤ブロダルマブ(ルミセフ)などの生物学的製剤による抗体療法の参入が著しいです。
2018年3月23日には抗IL-23のグセルクマブ(トレムフィア皮下注100mgシリンジ)という新たな生物学的製剤が製造承認されました。
グセルクマブは、IL-23のp19サブユニットタンパク質と結合することで、IL-23を介した生物学的作用を抑制するヒト型免疫グロブリンG1λ(IgG1λ)モノクローナル抗体です。
承認時までの日本人を含む乾癬患者を対象とした国内外の臨床試験などから本薬の有効性および安全性が確認されています。
国内第3相臨床試験を併合した本薬投与症例の検討で27.1%に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められています。
主なものとして注射部位紅斑(6.3%)、上気道感染(4.2%)です。重大なものに重篤な感染症、重篤な過敏症が報告されています。
生物学的製剤はドクターの治療の選択肢が広がると同時に、生物学的製剤の市場は激化しており、生き残りを掛けたメーカーのシェア争奪に注目が集まっております。
乾癬は現在さまざまな治療法が増えており、患者様自身がライフスタイルや症状に応じて選択できるようになっています。
「長く病院に行ったにもかかわらず、良くなったり悪くなったりの繰り返し」と諦めている患者様は多くいるかもしれません。
乾癬の治療薬が開発されていくにつれてこのような患者様を満足させる日が来るかもしれません。