季節の変わり目は体調管理が難しいと思います。
これから訪れる秋から冬にかけて気を付けるべき疾患としては、クリニックに訪れる患者さんの毎年の経過からみて、3疾患が挙げられます。
インフルエンザ、感染性胃腸炎、次いで長引く咳です。
これからの時期に気を付ける疾患
1.インフルエンザ
毎年、厚生労働省の感染症サーベランス事業により、全国500のインフルエンザ定点医療機関を受診したインフルエンザ患者数が週ごとに把握され、インフルエンザ注意報、警報システムが発表されています。
インフルエンザはインフルエンザウイルスにより引き起こされる急性ウイルス疾患です。
例年11月ごろから徐々に患者さんが増え始め、1月ごろ、流行がピークに達し4月過ぎに収束する傾向があります。
肺炎や脳炎を発症するリスクもあるため、風邪とは区別して考えるべき病気といえます。
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3つの型がありますが、冬に流行する季節性インフルエンザはA型とB型になります。
一度かかっても抗体はできず、翌年以降も感染します。
WHOによると、季節性インフルエンザで世界では、毎年300万人~500万人の重症患者を引き起こし、25万人~50万人の人々を死に至らしめているという報告があります。
季節性インフルエンザ以外に新型インフルエンザがあり、動物にのみ流行していたものが突然変異的にヒトにも病原性を示すようになり、近年では2009年にH1N1型の新型インフルエンザが日本だけでなく世界中で猛威をふるいました。
インフルエンザの主な症状は、突然の発熱(38度以上)、全身倦怠感や食欲不振などの全身症状が現れ、関節痛も伴い、やや遅れて咳や鼻水などの呼吸症状が現れる。
特徴としては1~3日の潜伏期間を経て突然発症し、感染経路は咳や鼻水を介して飛沫感染し、38度以上の高熱が3~5日続きます。
インフルエンザの診断には、迅速診断キットを使って10分~15分で陰性か陽性か、陽性ならA型かB型かの診断がつきます。
ただ注意すべきは、高熱が出て、数時間後に病院に行って検査しても、明らかにインフルエンザの症状でも陰性を示すことがあります。
目安として発熱後12時間後~48時間以内がベストです。
また、検査方法は細い綿棒を鼻から挿入して、鼻やのどの奥を綿棒でこすり、そこについた組織や分泌物を処理液に浸して検査キットに滴下することで判定を行います。
人によっては苦痛を感じたり、検査途中にくしゃみが出そうになったりします。
検査を受けるコツとして検査前にマスクを下にずらして鼻だけを出した状態で待ちます。
いよいよ綿棒の挿入というときにマスクの上から口を押えて受けてみてください。
鼻をくすぐられたときに出るくしゃみが収まります。
インフルエンザの治療には、内服薬、吸入薬、点滴などがあります。
タミフルに関しては、2007年から異常行動により10代への投与を原則中止していましたが、厚生労働省の専門家会議により、タミフルと異常行動の因果関係は明確ではないと判断し、2018年9月にタミフルを10代への投与を再び認める通知を出しました。
塩野義製薬が2018年8月に発表したインフルエンザ新薬のゾフルーザ錠は、1回の経口投与で速やかなインフルエンザウイルスを減少させる薬として注目を浴びています。
点滴などで痛い思いをすることなく、吸入などのすこし難しい仕様もありません。
インフルエンザと診断されたら社会人の方は会社の指示に従い、小中学校や高校生、学生さんは学校保健安全法により、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」学校はお休みです。
公休扱いとなります。
学校によっては治癒証明書が必要なところもあります。
保育園や幼稚園は年齢が小さいために、インフルエンザウイルスの排泄が長く続くという医学的な知見により、解熱した後3日を経過するまで休むことになっています。
2.感染性胃腸炎
ノロウイルスやロタウイルス、細菌や寄生虫などが原因で嘔吐や下痢を主症状とする感染症です。
流行性嘔吐下痢症とも呼ばれて、感染経路は病原体が付着した手で口に触れることによる接触感染と汚染された食品を食べることによる経口感染があります。
一般的には夏季は細菌性胃腸炎が、冬から春にかけてはウイルス性腸炎が多く発生します。
診断には詳しい問診が必要で発症の時期、食事の内容、周囲に感染した人がいるかどうか、旅行歴に加え、基礎疾患の有無や内服薬の確認など丁寧に聞き取ることが大切です。
急性胃腸炎の症状としては下痢はほぼ見られ、発熱、腹痛、悪心や嘔吐と体力をかなり消耗します。
治療に関しては特効薬はなく対症療法であり、抗菌薬は必要ない事が多い。
下痢や嘔吐に伴う脱水には点滴による輸液を行う。
下痢止めは腸管内容物の停滞時間を延長し、毒素の吸水を助長する可能性があり原則使用しない。
いつまでも続くのではないかという心配をされる方もおられますが、毒素が出れば、自然に収まります。
また、嘔吐が続くことにより、高齢者の方は、誤嚥性肺炎を起こすことがあるため体調の変化に注意しましょう。
ロタウイルスによる感染症には予防接種ワクチンがあり、乳幼児を中心に接種可能ですが、ノロウイルスに関しては予防接種はありません。
嘔吐物は想像以上に遠くまで飛び散っています。
床から1mの高さから吐くとカーペットでは1.8m、フローリングでは2.3m飛び散る事が実験で検証されています。
嘔吐物1gに対して数億個のウイルスが潜んでいます。
便や嘔吐物を処理する時は使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用して、布やペーパータオルで外側から内側に向けて集めながら処理しましょう。
3.長引く咳
秋から冬に起こる疾患として多いのが、風邪をひいてから咳だけが残り、中々、収まらずに長く続くという症状です。
2週間以上続く咳や、期間が短くても、夜間に眠れないほどの激しい咳が続く場合は風邪ではない可能性があります。
肺がん、結核、肺炎や心不全、咳喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など重篤な病気の場合もあるので、呼吸器専門医を受診することをお勧めします。
一回の咳で2キロカロリーのエネルギーを消耗するといわれています。
100回すれば200キロカロリー。軽いジョギングを30分行ったのと同じ数字で、咳の積み重ねでどんどん体力が消耗されていきます。
咳が止まらないのはとてもつらいものです。
専門医の診察を受けるとともに、自宅でも加湿器を利用して室内の湿度を50%~60%に保ち、咳止めに、はちみつ大根を作って食べたり、はちみつには抗炎症作用、抗酸化作用があるので、手軽に摂れて症状緩和に役立ちそうです。
ただし、1歳未満の赤ちゃんにはボツリヌス菌に感染する危険があるため、摂取は控えましょう。
また、就寝中に口の中の雑菌が増えて、そのまま朝食を食べてしまうと咳のもととなる病原体が体内に侵入しやすいので、起床後すぐにうがいをするか歯磨きを必ず行うようにしましょう。