さっきまで元気に遊んでいたのに急に熱が出たり、高熱や病院が閉まっている夜中に限って体調が悪くなったり…。
「幼稚園や保育園に行き始めると風邪や病気をもらって休むことが多い」と耳にすることもあります。
保育園や幼稚園などの集団生活が始まると、子供が病気に感染する機会が増えます。
次から次へともらってくる、風邪をはじめとする病気に不安になることも……。
「子供は大人より風邪をひきやすい」というのは本当なのでしょうか?
そしてその理由は?
子供は大人より風邪をひきやすい?
子供は大人と比べて免疫システムが未熟なため、病気にかかりやすくなっていると言われています。
子供が熱を出すと心配で薬を飲ませたくなりますが、風邪をひいても体調が悪化していなければ薬で進行を抑えるよりも病原体と戦う方が大切な場合もあります。
熱は病気そのものが出しているのではなく、体の中に入ってきた細菌やウイルスなどの病原体を排除しようとして起こす防御反応の一つであり、体が病原体と戦っているサインなのです。
風邪をひかないと抗体ができず免疫がつきません。
咳や鼻水・発熱といった風邪の症状は免疫力を高めている証拠で、頑張って病原体と戦った方が免疫アップに繋がります。
子供に「熱をだしてもらいたくない」と思うのは家族にとってあたりまえの事です。
しかし、免疫の仕組みを考えればむしろ感染症にかかって早く免疫を獲得した方が社会生活する上で得策になるのではないでしょうか。
免疫ってなに?
免疫とは「疫(えき)から免れる(まぬがれる)」、すなわち病気になりにくい体になるということです。
たとえば、一度はしかなどの伝染病にかかった人はほとんどの場合、同じ伝染病にかからなくなります。
このような体で起こる防御反応を免疫と言います。
この免疫システムは免疫を担当する様々な細胞によって体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体や、体内で発生した異常細胞であるがん細胞など自分ではないものを見つけだし、それらを異物と認識して攻撃することで自分の身体を正常に保つ働きをしています。
免疫の防衛体制は二段構えになっていて、大きく自然免疫と獲得免疫に分けられます。
その役割分担や違いをみてきましょう。
自然免疫とは?
自然免疫は第一段階の防衛ラインです。
免疫を担当する細胞が体の中に異物がないかどうかパトロールを行っており、異物を見つけると攻撃します。
またパトロールにより得られた情報をもとに、侵入してきた細菌・ウイルスなどの病原体や体内に発生したがん細胞などの異物情報を次の段階の「獲得免疫」に伝える役割もしています。
自然免疫を担当する細胞は様々な方法で異物を攻撃します。
好中球やマクロファージといった細胞は、侵入してきた異物を食べてやっつけます。
また、ナチュラルキラー(NK)細胞は、「生まれながらの殺し屋」と言われており、外敵が侵入すると即座に攻撃し、病原体に感染した細胞をも直接破壊します。
自然免疫の主な仕事は体を守るための最前線の戦いで、生まれながらに備わっている免疫反応です。
血液中の毒素分子や小さな病原体や細胞の中に入り込んだ病原体などは自然免疫ではカバーしきれず、次の段階である獲得免疫が対処します。
獲得免疫とは?
獲得免疫は第二段階の防衛ラインです。
自然免疫をすり抜けて体内で増殖した細菌やウイルスなどの病原体が現れた時に活躍します。
自然免疫から異物の情報を受け取って記憶し、異物との戦いに備えているため、同じ病原体が二度目に侵入してきた場合や体の中に異常細胞があった場合に素早い免疫反応を起こし病原体を排除して体を守ります。
獲得免疫を担当する細胞は主にT細胞やB細胞などのリンパ球です。
T細胞にはヘルパーT細胞やキラーT細胞があり、病原体に感染した細胞やがん細胞などの異常細胞を攻撃して破壊します。
B細胞は抗体を作り出して異物を破壊します。
死んだ病原体などの細胞を免疫系が取り込むことで病原体の情報をヘルパーT細胞とキラーT細胞に伝え、ヘルパーT細胞はB細胞に抗体をつくるように指令を出します。
キラーT細胞は、感染した細胞を見つけ出して殺す事ができます。
獲得免疫は初めて出会った異物に対して有効性を発揮するまでには数日かかりますが、一度出会ったことのある異物に対しては速やかに対応することができます。
なぜ子供は大人と比べて風邪をひきやすいの?
子供は感染の経験が少なく、体の中にまだ多くの免疫がないため、抵抗力が弱く風邪などにかかりやすいと言われています。
大人と比べて子供にはT細胞やB細胞といったリンパ球などの細胞が多くなっており、1~4歳までのリンパ球の数は大人の3倍になっているそうです。
その後、年齢が上がるとともに徐々に減りますが、それでも大人より高い割合で、その間に獲得免疫を得ることで抵抗力をつけていきます。
何度も熱をだしたり風邪をひいたりすることは乳幼児ではごく普通のこととも言え、小学生になる頃にはウイルスや細菌に対する抵抗力がある程度できるため風邪にかかる頻度は大幅に減少します。
風邪に罹患する頻度は、大人では年1〜2回程度ですが、幼小児では年5~8回、多い乳幼児では15回程にもなります。
風邪の原因となるウイルスや細菌は300以上あると言われており、それだけの回数風邪にかかっても不思議ではありません。
ヒトの体はウイルスや細菌に感染しないと抗体が作られません。
生後10ヶ月頃から5才くらいまでに感染する病原体はおよそ300くらいあると言われており、これらに順次感染していくことでひとつひとつ免疫を獲得していきます。
ある時は発熱、ある時は咳、ある時は下痢等次々にかかることで少しずつ体が強くなり、 ほぼ300の感染症に罹患し免疫が成立すると、その後の風邪の頻度は成人と同様に年1〜2回程度ですむことになります。
生後10ヶ月頃までの赤ちゃんは母親からへその緒や母乳を通して免疫(抗体)をもらっているため、病気にかかりにくくなっています。
10ヶ月をすぎた辺りから母親からもらった免疫力が薄れてくるため、自ら免疫を獲得して抵抗力をつけなければなりません。
こういうと10ヶ月頃までの赤ちゃんは抵抗力が強いと思いがちですが、免疫というのは抗体(免疫グロブリン)だけではなく好中球やリンパ球など他の免疫細胞も合わせた総合的な力で決まります。
これらを含めた総合的な免疫力を比較すると、生まれてすぐが一番弱く、6か月過ぎから徐々によくなっていきますが2歳くらいまでは低く、6歳頃にはかなり大人に近づきます。
また、病気にかかるかどうかは、感染症との接触の機会が多いかどうかも関係します。
免疫を高めるにはどうしたらいいの?
免疫力を向上させる=免疫細胞の働きを高める、ということになります。
私たちの免疫力は体のどこで決まるかというと、腸です。
食べものに付着して体内に侵入した病原体などの異物の安全性を識別するため、リンパ球の6~7割は腸に集まっており、免疫細胞の約7割が腸内で活動しています。
腸内にいる細菌の種類が多ければ多いほど、体の外から入ってくる様々な病原体に対応できる可能性が高くなると言われています。
ヒトは子供のうちに身の周りからさまざまな菌を取り込んで腸内細菌の数や種類を増やしていきますが、その人が生涯持つ腸内細菌の種類は、なんと1歳までで決まると言われています。
5歳くらいまでは増やすことができますが、子供のうちにどれだけたくさんの種類の菌を取り込めるかで、抵抗力が決まってきます。
そして、腸内の免疫細胞を活性化できる食べ物をとっているかどうかも免疫力を大きく左右します。
ヨーグルトなどの発酵食品や食物繊維、オリゴ糖などは、腸内細菌叢を改善して免疫力を高めます。
タンパク質は免疫細胞を活性化させるのに必要で、ビタミンAやビタミンEなどのビタミン類、亜鉛やセレン、銅、マンガンなどのミネラル類、コレステロールなども免疫細胞の強化には必須の栄養です。
さまざまな栄養成分が免疫力を高めるために必要ですが、腸内の環境も免疫細胞の働きも、人によって大きく異なります。
そのためある特定の食品を食べれば、免疫力が高まるというわけではなく、またある人に効果があったからといって、別の人にも効果があるとは限りません。
免疫力を高める効果のある栄養素を意識しながらも、多くの種類の食材をバランスよく食べること、規則正しく食事をすることが一番大切です。
また、免疫細胞は温度が高い方が活発化するという報告もあります。
体温には免疫力はもちろん腸内細菌や酵素を活発に働かせたり、血液を循環させたりエネルギーを生成するなど、体の機能には欠かせない重要な役割があります。
体温が1度上がると免疫力は5~6倍高くなり、逆に体温が1度下がると免疫力は30%低くなるとも言われています。
体温調節に重要な役割を果たしている汗腺の数は、生後2〜3年の生育環境で決まると言われています。
このことから、体温調節能力は幼少期で決まり、その時の生活環境が影響すると考えられます。
現代の子供たちは冷暖房の完備された部屋で過ごすことが多くなっていますが、幼少期に快適すぎる環境に身を置くことは体温調節能力の発達の点から考えるとあまりよいこととは言えません。
様々な環境に身を置くことで体温調節能力が高まり、健康な体を作ることができます。
一番簡単に様々な環境に触れる方法としては、やはり「外遊び」がよいと思われます。
外遊びは身体能力や人とのコミュニケーション能力を発達させたり、一生の財産となるさまざまな能力を育むことができます。
免疫力向上の面からも外遊びを増やしてはどうでしょうか。
最後に・・・ 風邪は人から貰うものなので、どうしても避けることはできません。
風邪を引いてしまった場合でも、いち早く“免疫力を回復する”ようにすることが大切です。
日頃より、免疫力が低下しないような、できれば上げるような生活を心がけましょう。
子供の頃に様々な環境で遊びを楽しみ、たくさんの病気を経験し免疫力をつけていくことで、大人になっても病気になりにくい体になります。子供の時に獲得した免疫は、生涯の宝物になります。